
個人住民税とは?まずは基本から
個人住民税とは、お住まいの都道府県と市区町村に納める税金です。福祉・教育・ごみ処理・防災など、身近な行政サービスの費用をみんなで分担する「地域の会費」のような性質を持っています。
初めて実務を担当する方が押さえておきたい基本は、次の3点です。
- 税額は「前年1年間(1月〜12月)の所得」をもとに計算される(後払い方式)
- 納税する年度は「6月から翌年5月まで」の12か月単位で動く
- 税額は、所得に応じた「所得割」+定額の「均等割」で構成される(2024年度からは国の森林環境税・年額1,000円も均等割と併せて徴収)
つまり、2026年6月から天引きが始まる住民税は「2025年1月〜12月の所得」に対する税金です。「今年の給与から引かれているのは去年の分」と覚えると、従業員への説明もしやすくなります。
この住民税の納め方(徴収方法)には、次の2種類があります。
- 特別徴収(会社が給与から天引きして納付する方法)
- 普通徴収(本人が自分で納付する方法)
会社員の場合は「特別徴収」が原則です。そして毎年6月は、新年度の税額への切り替えが集中する、給与担当者にとって1年で最も重要な時期です。
特別徴収とは
特別徴収とは、事業主(会社)が従業員の給与から住民税を毎月天引きし、従業員に代わって市区町村へ納付する制度です。
「うちは小さい会社だから任意でいいのでは?」と思われがちですが、そうではありません。所得税の源泉徴収義務がある事業主は、原則としてすべての従業員について特別徴収を行うことが法律で義務付けられています。これは2026年時点でも変わりません。
そのため、退職・休職や給与の支払形態など特別な事情がない限り、会社や従業員の希望で普通徴収を選ぶことはできない、と理解しておきましょう。
普通徴収との違い
普通徴収は、市区町村から本人宛てに送られてくる納税通知書(納付書)を使い、本人が直接納付する方法です。主に次のような方が対象になります。
- 自営業者・フリーランス
- 退職して次の勤務先が決まっていない方
- 給与が少なく天引きできない方など、市区町村が認める一部の例外に当てはまる方
普通徴収の特徴(2026年時点)
- 納付は原則年4回(6月・8月・10月・翌年1月)
- クレジットカード・スマホ決済など、キャッシュレス納付に対応する自治体が拡大
- 一括納付・分割納付の選択が可能
毎月天引きされる特別徴収と比べて1回あたりの納付額が大きくなるうえ、納付忘れのリスクもあります。従業員にとっては、手間なく納め忘れも防げる特別徴収のほうがメリットの大きい仕組みです。

【2026年度の最重要トピック】税制改正で6月から住民税額が変わる
2026年度(令和8年度)の住民税は、いわゆる「年収103万円の壁」見直しを含む令和7年度税制改正の影響を初めて受ける年度です。2025年分の所得税ではすでに適用済みの改正が、1年遅れで住民税に反映され、2026年6月からの天引き額に影響します。担当者が押さえておくべき変更点は次のとおりです。
① 給与所得控除の最低保障額が55万円→65万円に
給与収入から差し引ける「給与所得控除」の最低額が10万円引き上げられました。給与収入190万円以下の従業員に影響し、その分課税対象の所得が減るため、パート・アルバイトを中心に住民税が下がる、または非課税になる方が増えます。
②「特定親族特別控除」の新設(大学生年代の子ども等)
19歳以上23歳未満で合計所得金額58万円超123万円以下(給与収入のみなら123万円超188万円以下)の親族がいる場合、親等の住民税から最大45万円の控除が受けられる制度が新設されました。子どもがアルバイトで稼ぎすぎて親の控除が一気にゼロになる、という従来の問題を緩和する仕組みです。
③ 扶養控除等の所得要件が48万円→58万円に
配偶者控除や扶養控除の対象になれる親族の所得要件が10万円引き上げられました。これまで対象外だった家族が新たに控除対象になるケースがあります。
④ 住民税の基礎控除は変更なし(要注意)
所得税では基礎控除が大幅に引き上げられましたが、住民税の基礎控除は43万円のまま変更されていません。「所得税が0円だから住民税も0円」とは限らない点は、従業員から質問されやすいポイントです。
【実務ポイント】
- これらの改正は「2025年中の収入」に対する2026年度住民税から適用され、2026年6月支給給与の天引き分から反映されます。
- 税額が前年より下がる従業員が多く発生するため、税額通知の確認時は「下がっていること」自体は想定内として、極端な増減のみ重点チェックすると効率的です。
- 「なぜ所得税と住民税で控除額が違うのか」という従業員からの問い合わせ増加が見込まれます。社内FAQを用意しておくと対応がスムーズです。
※なお、2024年度に実施された定額減税(住民税1万円)はすでに終了しており、2026年度は通常の税額計算に戻っています。
【2026年6月の重要ポイント】住民税は「新年度切替月」
6月は、前年の所得に基づいて計算された新年度の住民税がスタートする月です。給与実務では、次の作業が一斉に発生します。
- 特別徴収税額決定通知書の受領と、従業員への配付
- 6月支給給与からの新税額での天引き開始
- 前年度との差額確認(税制改正により今年は変動が大きい点に注意)
このため、5月末から6月初旬は1年で最もミスが起こりやすいタイミングです。あらかじめ年間の流れを理解しておきましょう。
特別徴収の実務フロー(2026年版)
① 給与支払報告書の提出(1月)
給与支払報告書とは、前年に支払った給与の内容を市区町村に知らせる書類で、いわば「源泉徴収票の市区町村版」です。市区町村はこれをもとに各従業員の住民税額を計算します。毎年1月31日までに、従業員それぞれの1月1日時点の住所地の市区町村へ提出します。
提出は地方税のオンライン窓口「eLTAX(エルタックス)」による電子提出が標準となっており、2026年時点では電子での運用がほぼ前提です。
【実務ポイント】
- eLTAXの利用者登録がまだの場合は、早めに対応しましょう。
- 前々年に税務署へ提出した源泉徴収票が100枚以上の事業者は、電子提出が義務です。
- 提出が遅れると従業員の税額決定に影響し、6月からの天引きに間に合わなくなるおそれがあります。期限厳守で進めてください。
② 特別徴収税額通知の受領(5月末)
市区町村から「特別徴収税額決定通知書」が届きます。これは、6月から翌年5月まで毎月いくら天引きするかを従業員ごとに知らせる、実務の核となる書類です。確認すべきは次の3点です。
- 6月から翌年5月までの各月の税額
- 従業員ごとの金額(給与システムへの登録内容と一致するか)
- 入社・退職者が正しく反映されているか
なお、税額通知は1月の給与支払報告書提出時に「電子データ」での受け取りを選択でき、eLTAX経由で受領する運用が広がっています。従業員向けの通知(納税義務者用)も電子データで受け取り、社内システムやメールで配付することが可能です。
【実務ポイント】
- 通知の到着時期は自治体によって差があります。5月中旬から確認を始め、届かない自治体には問い合わせましょう。
- 従業員数が多い場合は、1月に提出したデータとの突合作業を計画的に進めてください。
- 入社・退職者の反映漏れは最も多いミスです。異動者リストを作って1人ずつ確認しましょう。
- 税額通知の受取方法(電子か書面か)は年度途中で原則変更できません。翌年度の方針は毎年1月の提出時までに決めておく必要があります。
③ 6月給与から天引き開始
6月支給の給与から、新年度の税額での天引きを開始します。天引きした住民税は、翌月10日までに各市区町村へ納付します。納付もeLTAXによる電子納付(地方税共通納税システム)が主流で、紙の納付書の利用は減少しています。
なお、毎月の納付作業は「自動化」することができます。ここでいう自動化とは、たとえば次のような、毎月銀行に足を運んだり手作業で振り込んだりしなくても納付が完了する仕組みのことです。
- eLTAXのダイレクト納付(あらかじめ届け出た口座から、指定日に自動で引き落とされる仕組み)
- インターネットバンキングによる電子納付(eLTAXで作成した納付情報をもとにオンラインで支払う方法)
- 給与計算システムとeLTAXを連動させ、天引きした税額の納付データを自動作成する方法
【実務ポイント】
- 給与システムの税額更新は、通知書の金額と1件ずつ照合しながら正確に行いましょう。
- 今年は税制改正で税額が変動する従業員が多いため、給与明細配付前に社内アナウンスをしておくと問い合わせを減らせます。
- 納付を自動化すると納め忘れを防げる一方、もとになる税額の設定が誤っていると、誤った金額が毎月自動で納付され続けてしまいます。自動化している場合でも、「実際に納付された額」と「給与から天引きした額」が一致しているかの確認を月1回は行ってください。
納期の特例(従業員10人未満の事業所向け)
従業員が常時10人未満の事業所は、市区町村に申請して承認を受けると、納付を年2回にまとめることができます。
- 6月〜11月分:12月10日までに納付
- 12月〜翌年5月分:6月10日までに納付
※あくまで「納付」が年2回になるだけで、従業員の給与からの天引きは毎月行います。
誤解しやすい点ですが、この特例は納める税額が減る(安くなる)制度ではありません。納付する税額の合計は毎月納付の場合とまったく同じで、納付の回数を年12回から年2回にまとめることで、毎月の納付事務の負担を軽くするための制度です。
【実務ポイント】
- 特例は市区町村ごとに申請が必要で、承認されて初めて有効になります。
- 一度承認されると自動的に継続します。従業員が常時10人以上になった場合は、必ず届け出て毎月納付に戻してください。
- 毎月の納付事務は減りますが、税額の合計は変わらないため、1回あたりの納付額(約6か月分)は大きくなります。納付月に向けた資金繰りの管理は計画的に。
2026年時点で重要度が増している実務ポイント
① 電子化前提の運用
- 給与支払報告書の提出、税額通知の受領、納付までeLTAXで完結する運用が標準に
- 紙の通知・納付書は縮小傾向
【実務ポイント】
- 紙が届かない前提で、電子受領・電子納付の体制を整えておきましょう。
- eLTAXの障害・メンテナンス情報を定期的に確認し、納期限直前のトラブルに備えてください。
② マイナポータル連携の拡大
- 従業員が自分の税情報をオンラインで確認できる環境が拡大
- 会社側の説明負担は軽減傾向
【実務ポイント】
- 従業員自身がマイナポータルで住民税額を確認できるため、「通知書の見方」と併せて案内すると問い合わせ対応が楽になります。
③ 異動処理のスピード要求
- 退職・入社時の届出遅れリスクは引き続き要注意
- 届出遅れによる「事業主負担」リスクも従来どおり重要
【実務ポイント】
- 退職・入社などがあった場合に提出する「給与所得者異動届出書」の期限は、異動があった月の翌月10日です。
- 提出が遅れると、本来従業員が納めるべき税額を事業主が滞納扱いで追徴されるケースがあります。
- 複数の自治体に提出が必要な場合は、まとめて処理できる体制(チェックリストや担当ルール)を作っておきましょう。
退職・入社時の取扱い(実務で最もミスが多い領域)
退職時
退職者の残りの住民税(退職月から翌年5月分まで)の取り扱いは、主に3パターンです。
- 普通徴収へ切り替え(本人が自分で納付)
- 最終給与や退職金から残額を一括徴収
- 転職先で特別徴収を継続(転職先への引き継ぎ手続きが必要)
なお、1月1日から4月30日までの退職では、原則として残額を一括徴収することとされている点も覚えておきましょう。
【実務ポイント】
- 一括徴収の要否判断のミスは、退職者とのトラブルに直結しやすい領域です。
- 退職者の希望と時期のルールを確認し、異動届出書を正確に提出することが重要です。
- 届出の遅れが滞納処分に発展することもあるため、退職手続きのチェックリストに必ず組み込みましょう。
入社時
- 本人が普通徴収で納めている場合、申請により特別徴収へ切り替え可能
- ただし、すでに納期限が過ぎた分は切り替えできない。
【実務ポイント】
- 入社手続きの一環として、前職での住民税の徴収方法(特別徴収の継続手続きの有無)を確認しましょう。
- 転職直後は「前職分(普通徴収の納付書)」と「現職分」の支払いが重なって見えることがあります。事前に説明するとトラブルを減らせます。
- 切り替えのタイミングと税額を記録しておくと、後々の問い合わせ対応がスムーズです。

まとめ
特別徴収は、従業員にとって手間なく納め忘れも防げるメリットの大きい制度です。一方で、会社側は「1月の給与支払報告書」「5月末の税額通知」「6月の切り替え」「毎月の納付」「退職・入社時の異動届」と、年間を通じて正確な事務処理が求められます。
特に2026年度は、給与所得控除の引き上げや特定親族特別控除の新設など、令和7年度税制改正が住民税に初めて反映される年度です。6月の税額通知では例年以上に税額の変動が大きく、従業員からの問い合わせも増えることが予想されます。
また、eLTAXを軸とした電子化はすでに「対応するかどうか」ではなく「前提」となっており、電子受領・電子納付を組み込んだ業務フローの整備が欠かせません。
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