コラム

退職金にかかる税金は何がある?【2026年版】所得税・住民税・退職所得控除をわかりやすく解説

退職金は従業員の長年の勤労に報いる大切な給与であり、その税務処理は給与計算担当者にとって重要な業務です。退職金には複数の税金がかかり、それぞれ計算方法が異なるうえ、支給後の対応も多岐にわたります。本記事では、2026年(令和8年)時点で給与・社会保険実務担当者が押さえておくべき退職金にかかる税金と、支給後の実務対応を、専門用語の解説を交えながら初心者にもわかりやすく解説します。

2026年(令和8年)改正:まずはここだけ押さえる!2026年の主な変更点

  • 退職所得控除の「重複排除期間」が5年→10年に延長
    確定拠出年金(DC)の一時金と会社の退職金を両方受け取る人が増えたことを受け、控除が二重にならないよう調整する期間が「前年以前4年内」から「前年以前9年内」に延長されました(2026年1月1日以後に支払を受けるものから適用)。
  • 退職所得の源泉徴収票の税務署提出が全員分に拡大
    これまでは会社役員のみが対象でしたが、2026年1月1日以後に提出するものからは、退職金を支払ったすべての人について税務署への提出が必要になりました。
  • 復興特別所得税は2026年中は変更なし(2027年1月から制度変更の予定)
    2026年の税率・計算方法に変更はありません。ただし2027年1月から「防衛特別所得税」が新設され、復興特別所得税の税率引き下げとセットで実施される予定のため、翌年に向けた準備として概要を後述します。

退職金とは

退職金は、会社を退職した際に支給される金銭のことで、勤続年数や業種等、会社の制度によって支給される金額が異なります。退職金は退職後の生活を支える大事な資金となり、毎月支給される給与よりもまとまった額になることが多いです。

2026年現在、退職金制度は多様化が進み、退職一時金、確定拠出年金、企業年金など複数の受け取り方法が存在します。それぞれの税務処理を正確に行うことが実務担当者に求められます。

用語解説:退職所得

税法上、退職金や退職手当など「退職によって一時的に受け取るお金」のことを指します。給与所得とは区別され、後述する「退職所得控除」や「1/2課税」など税負担が軽くなる仕組みが適用されます。

退職金制度の種類

  • 退職一時金制度:会社が従業員に退職時にまとまったお金を一括で支払う、最も一般的な制度です。
  • 退職金共済制度:中小企業退職金共済(中退共)など外部組織が給付を担う制度で、中小企業での利用が多いです。
  • 確定給付企業年金制度(DB):企業が外部に掛け金を積み立て・運用し、一定額を従業員に支払う制度です。(将来の給付額があらかじめ決まっている)
  • 企業型確定拠出年金制度(DC):企業(と従業員)が掛け金を積み立て、従業員本人が運用し、運用実績に応じて支払われる制度です。
用語解説:確定拠出年金(DC)・iDeCo

毎月の掛け金をあらかじめ決めておき、加入者自身が運用方法を選ぶ年金制度です。企業が掛け金を出す「企業型DC」と、個人が任意で加入する「iDeCo(individual-type Defined Contribution)」があります。60歳以降に一時金または年金として受け取れ、一時金として受け取る場合は「DC一時金」として退職所得の扱いになります。後述する2026年の改正は、このDC一時金と会社の退職金を両方受け取るケースに関わります。

退職金にかかる税金は何があるのか

退職金には複数の税金がかかり、それぞれ計算方法が異なるため、実務担当者には正確な把握が求められます。退職金にかかる税金は以下の3種類です。

  • 1.所得税(退職所得税)
  • 2.住民税(退職所得に係る市区町村民税・都道府県民税)
  • 3.復興特別所得税

退職金は長年の勤労に対する給与が一時的にまとめて支払われるものであることなどから、退職所得控除が設けられ、他の所得と分離して課税されるなど、税負担が軽くなるよう配慮されています。

用語解説:分離課税

給与や事業所得など他の所得と合算せず、退職所得だけを独立して税額計算する方式です。退職金は一時にまとまった収入になるため、他の所得と合算すると税率が跳ね上がってしまいます。それを避けるための仕組みが分離課税です。

①所得税(退職所得税)の計算方法

計算のポイント

所得税は、支給される退職金から退職所得控除を差し引いた金額に1/2をかけた「退職所得金額」に対して課税されます。

(退職金 − 退職所得控除) × 1/2 = 退職所得金額

この「1/2」という係数が、退職金の税負担を軽くする最大のポイントです。これにより、同額の給与を受け取る場合よりも大幅に税負担が低くなります。

実務ポイント:「1/2課税」が使えないケースに注意

勤続年数5年以下の会社役員等(特定役員退職手当等)や、勤続年数5年以下の従業員が受け取る退職金のうち300万円を超える部分(短期退職手当等)は、1/2課税の対象外となります。短期間勤務者の退職金がある場合は、必ず勤続年数を確認しましょう。

退職所得控除の計算方法

退職所得控除は、勤続年数に応じて控除額が変わります。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
20年超え 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

※勤続年数の端数は1年として切り上げます。
※障害者となったことに直接基因して退職した場合は、100万円を加算した金額が控除額です。

用語解説:勤続年数の切り上げ

例えば勤続20年と3か月の場合、3か月分は切り捨てずに1年として繰り上げ、「勤続21年」として控除額を計算します。1日でも端数があれば切り上げる点に注意しましょう。

2026年(令和8年)改正:退職所得控除の重複排除期間が「5年」→「10年」に延長

DC一時金(確定拠出年金の老齢一時金)を受け取った後、別途会社の退職一時金を受け取ると、勤続年数(加入期間)が重なる部分について控除が二重に使えてしまう問題がありました。これを防ぐための「重複排除」の判定期間が、2026年1月1日以後に支払を受けるものから、次のとおり延長されます。
改正前:退職手当等を受け取る年の前年以前「4年内」にDC一時金を受給していた場合が対象
改正後:退職手当等を受け取る年の前年以前「9年内」にDC一時金を受給していた場合が対象(実務上は「10年空けないと調整対象」というイメージ)
対象者から「退職所得の受給に関する申告書」でDC一時金の受給有無・受給時期を確認し、重複期間があれば退職所得控除額から重複分を差し引いて計算します。定年延長などでDC一時金を先に受け取り、数年後に退職金を受け取る従業員が増えているため、該当者がいないか事前確認が重要です。

所得税の税率と計算

課税退職所得金額に対して、以下の速算表で所得税を計算します。

課税退職所得金額 税率 控除額
195万円以下 5%
195万円超〜330万円以下 10% 9万7,500円
330万円超〜695万円以下 20% 42万7,500円
695万円超〜900万円以下 23% 63万6,000円
900万円超〜1,800万円以下 33% 153万6,000円
1,800万円超〜4,000万円以下 40% 279万6,000円
4,000万円超 45% 479万6,000円
用語解説:課税退職所得金額

退職所得控除を差し引いたあとに1/2をかけた「退職所得金額」のことです。この金額を上の速算表に当てはめて所得税額を計算します。住民税の計算に使う「退職所得」と名前が似ていますが同じ金額なので、混同に注意しましょう。

【所得税の計算例】退職金3,000万円、勤続年数37年(重複排除の対象者ではない場合)

  • 退職所得控除額:800万円 + 70万円 × 17 = 1,990万円
  • 退職所得金額:(3,000万円 − 1,990万円)× 1/2 = 505万円
  • 所得税:505万円 × 20% − 42万7,500円 = 58万2,500円

②復興特別所得税の計算方法

復興特別所得税は、東日本大震災からの復興財源確保のために2013年1月から導入された税金です。2026年時点でも税率・計算方法に変更はなく、2037年まで継続される予定です。

復興特別所得税 = 所得税額 × 2.1%

【計算例】上記の例の場合
所得税額 58万2,500円 × 2.1% = 1万2,232円
合計所得税(復興特別所得税含む):58万2,500円 + 1万2,232円 = 59万4,732円

実務ポイント:実務での注意点

復興特別所得税は所得税額に上乗せする形で加算されます。源泉徴収票では区分して記載することが多いため、確認が必要です。

2026年(令和8年)改正:【先読み情報】2027年1月からの制度変更に備える

2026年度税制改正大綱では、防衛力強化の財源確保のため、2027年(令和9年)1月から所得税額に1%の「防衛特別所得税(仮称)」を新設する一方、復興特別所得税の税率を2.1%から1.1%に引き下げることが示されています(合計の付加税率は当面2.1%のまま)。あわせて復興特別所得税の課税期間が2037年末から2047年末まで10年延長される見込みです。
2026年中の計算・源泉徴収に変更はありませんが、2027年からは源泉徴収税額表の入れ替えや給与システムの改修が必要になる可能性があるため、今のうちに情報を追っておくと安心です。国会審議により内容が変更される可能性がある点にも留意してください。

③住民税(退職所得に係る市区町村民税・都道府県民税)の計算方法

退職金にかかる住民税は、退職所得に対して一律10%(都道府県民税4%、市区町村民税6%)です。

退職所得 × 10% = 住民税額

※退職所得は、(退職金 − 退職所得控除)× 1/2 で計算します。

【計算例】上記の例の場合(退職所得505万円)
住民税:505万円 × 10% = 50万5,000円

実務ポイント:住民税計算で最も多いミス

住民税は「退職所得」に対してかかり、所得税の「課税退職所得金額」とは呼び方が異なるだけで、実は同じ金額です。退職所得控除後に1/2を乗じた後の金額を使うことを忘れやすいため注意しましょう。

実務ポイント:住民税の納期に関する実務ポイント

退職所得に係る住民税は、

  • 退職金を支払うときに税額を計算し
  • 会社が特別徴収(天引き)を行い
  • 徴収した月の翌月10日までに市区町村へ納入する

という流れで手続きを行います。毎月の給与から差し引く住民税とは仕組みが異なり、納入先は退職手当などの支払いを受ける人が、「退職手当などの支払いを受けるべき日(通常は退職日)」が属する年の1月1日現在でお住まいだった市区町村です。退職金を支払うたびに手続きが発生しますので、納入期限の管理にご注意ください。

退職金支給時の実務対応

支給日までのチェックリスト

  • □ 退職所得の受給に関する申告書の提出確認(必須)
  • □ DC一時金など他の退職手当等の受給有無・受給時期の確認(重複排除の対象になっていないか)
  • □ 勤続年数の正確な計算(端数は月数を1年に切り上げ)
  • □ 退職所得控除額の算出
  • □ 所得税・復興特別所得税の計算
  • □ 住民税の計算
  • □ 支給額・手取り額の最終確認
  • □ 退職者への説明資料の準備
実務ポイント:【重要】申告書未提出時のリスク

申告書の提出がない場合、源泉徴収税率が20.42%に跳ね上がります。上記の例(退職金3,000万円)では、3,000万円 × 20.42% = 612万6,000円となり、申告書提出時の59万4,732円との差は553万1,268円に達します。

支給日以降の実務対応

退職所得の源泉徴収票・特別徴収票の作成・提出

退職金を支給した場合は、「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」(所得税用と住民税用が一体となった様式)を作成し、所定の提出先へ提出・交付する必要があります。

  • 退職者本人への交付:退職後1か月以内
  • 市区町村(特別徴収票)への提出:退職後1か月以内
  • 税務署(源泉徴収票)への提出:原則として退職後1か月以内
    ※法定調書合計表とあわせて、その年中に退職した受給者分を翌年1月31日までに提出することも認められています。
  • 電子提出:近年は、税務署への提出はe-Tax、市区町村への提出はeLTAXを利用するケースが増えています。

2026年(令和8年)改正:税務署への提出対象が「全員分」に拡大

これまで「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を税務署へ提出する義務があったのは、会社役員(法人役員)のみでした。しかし、2026年1月1日以後に支払う退職金からは、退職金を支払ったすべての方が提出対象となります

この改正は、企業型DCやiDeCoなどの一時金と退職金の両方を受け取る場合に、退職所得控除が適正に適用されているかを課税当局が正確に把握するために行われたものです。提出対象が拡大されたことで、今後は一般従業員分についても提出漏れや二重発行がないよう、社内の管理フローを見直しておくことが重要です。

一方、市区町村へ提出する「退職所得の特別徴収票」については、**地方税法施行規則の改正(令和7年総務省令第116号)**により、2026年1月1日以後に支払う退職金については、会社役員(法人役員)以外の方は、当分の間、提出が不要とされています。

ただし、この取扱いは自治体によって運用が異なる場合があります。提出の要否については、あらかじめ各市区町村のホームページや窓口で確認しておくと安心です。

退職者への説明と書類交付

退職金支給後は、退職者への説明や書類交付が重要です。

  • 源泉徴収票の交付
  • 支給額・手取り額・各税金の詳細を記載した説明書
  • DC一時金を別途受け取っている(受け取る予定の)場合は、控除額が調整される可能性があることの説明
実務ポイント:退職者への説明のポイント

退職金の支給時には、「なぜこんなに税金が差し引かれているのか」「税金が引かれていないが問題ないのか」「自分で納付する税金はあるのか」といった質問を受けることがあります。こうした疑問を解消するためにも、退職所得控除や1/2課税などの仕組みを説明した資料を用意しておくと、退職者の理解が深まり、担当者の対応負担の軽減にもつながります。

実務上よくある問い合わせと対応

Q1. 申告書を提出し忘れた場合は?

提出忘れで20.42%が源泉徴収されても、退職者は確定申告で還付を受けられます。ただし企業側のミスとなるため、速やかな対応が必要です。

Q2. 退職金と退職年金を両方受け取った場合は?

一時金と年金は税務計算が異なります。一時金には退職所得控除、年金には公的年金等控除が適用されます。

Q3. 在職中に退職金制度が廃止された場合は?

制度廃止時に特別支給金が出た場合、その性質(退職金か給与か)により税務計算が異なります。人事部門との綿密な打ち合わせが必須です。

Q4. 支給後に計算誤りが見つかった場合は?

支給後の誤りの場合、通常は修正対応が必要です。まずは正しい税額を計算し直し、退職者との間で過不足額を精算します。そのうえで、訂正後の「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を作成して退職者へ再交付し、すでに税務署や市区町村へ提出している場合は、訂正分をあらためて提出します。判断に迷う場合は、所轄の税務署や市区町村に確認しながら進めましょう。

Q5.【2026年改正】DC一時金と退職金を両方受け取る従業員がいる場合は?

2026年1月1日以後に支払うものからは、退職手当等を支給する年の前年以前9年内にDC一時金を受給しているかどうかを確認する必要があります。該当する場合は、重複する勤続期間分の退職所得控除額を減額して計算します。「退職所得の受給に関する申告書」でDC一時金の受給時期・金額を必ず確認しましょう。

給与アウトソーシングの活用

退職金の税務処理は複雑で、計算ミスが起こりやすい領域です。2026年の改正でDC一時金との重複確認という新たな確認項目も加わり、支給日以降の対応も多岐にわたります。以下のような課題を感じていませんか?

  • 退職所得控除、1/2控除、重複排除の判定など、複雑な計算をいつも確認している
  • 申告書提出の確認漏れが心配である
  • 源泉徴収票の作成・提出範囲拡大に対応しきれるか不安である
  • 支給後の住民税申告対応が心配である
  • 退職者からの問い合わせ対応に時間を取られている
実務ポイント:当社サービスのメリット

給与社保アウトソーシングサービスをご利用いただくと、次のような対応が可能です。

  • 退職金の全税金計算(重複排除の判定含む)を正確に実施
  • 申告書の提出確認を管理
  • 源泉徴収票の作成・チェック・提出範囲拡大への対応を一括対応
  • 法改正への即座な対応
  • 給与計算担当者の月次業務負荷を削減

中小企業で給与担当者が複数業務を兼務している場合、退職金処理をアウトソーシングすることで、業務効率化、計算ミスの排除、従業員満足度向上が実現できます。

まとめ

退職金は従業員にとって貴重な給与です。給与計算担当者・人事総務管理者の皆様には、支給前から支給後まで、正確で迅速な対応が求められています。

2026年(令和8年)は、退職所得控除の重複排除期間の延長(5年→10年)や源泉徴収票の提出義務の対象拡大など、実務に直結する改正が施行される年です。多様な退職金制度、複数拠点での運用など、実務の複雑さはむしろ増す傾向にあります。

給与担当の人員不足、計算ミスのリスク、支給後の対応の煩雑さにお悩みであれば、給与計算アウトソーシングの導入を強くおすすめします。

ぜひこの機会に、当社の給与社保アウトソーシングサービスをご検討・ご利用ください。

専門的なサポートにより、給与計算業務の煩雑さを解消し、より戦略的な人事業務に専念することができます。

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用語ミニ辞典(初心者向け早見表)

用語 意味
退職所得 退職金など、退職に伴い一時的に受け取るお金にかかる所得区分のこと。
退職所得控除 退職所得から差し引ける非課税枠。勤続年数が長いほど大きくなる。
分離課税 他の所得と合算せず、退職所得だけを独立して税額計算する方式。
課税退職所得金額 退職所得控除後に1/2をかけた金額。所得税の速算表に当てはめる金額。
復興特別所得税 東日本大震災の復興財源のため、所得税額に2.1%を上乗せする税金(2013〜2037年、2026年時点は変更なし)。
DC一時金 確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の老齢給付金を一時金として受け取ったもの。退職所得として扱われる。
退職所得の受給に関する申告書 退職者が会社に提出する書類。これにより源泉徴収税額が正しく計算される(未提出だと20.42%源泉徴収)。
重複排除(調整規定) DC一時金と退職金など複数の退職所得を受け取る際、控除額が二重にならないよう勤続期間を調整する仕組み。

参考・出典
・国税庁|退職金と税、令和7年度税制改正の解説
・財務省|令和8年度税制改正大綱
・厚生労働省|退職金制度<
・日本年金機構|企業年金

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