コラム

労働保険の年度更新とは?手続き方法とポイントを説明

労働保険の年度更新とは?

2023年度の雇用保険料率が公表されました。保険料率は引き上げられ労働者負担、事業主負担それぞれで0.1%上がることになります。この雇用保険と労災保険の総称である労働保険は毎年前年度分の保険料の確定と、今年度分の保険料の概算申告と納付を行わなければなりません。これらの手続きを年度更新といいます。年度更新は毎年6月1日から7月10日までの間に行う必要があります。期限の直前に慌てないよう手続き方法と注意点をしっかり押さえておきましょう。本記事では労働保険料の計算や年後更新手続きの流れ、注意点を解説します。

労働保険とは

労働者の保護及び雇用の安定を図ることを目的とした社会保険制度の1つ。労働保険とは労働者災害補償保険(以下、労災保険)と雇用保険を総称したもの。

労働保険 労災保険 通勤中や勤務中のケガや事故、疾病、傷害、死亡などに対して保険給付を行うもの。労働者を1人でも雇用していれば加入が必要。
雇用保険 労働者の雇用の安定や就業の促進が目的。労働者が失業した際などに給付を行うもの。1週間の所定労働時間が20時間以上あるなど、一定の条件を満たす労働者がいる場合に加入が必要。

労働保険の加入手続き

正社員、パート、アルバイトなどにかかわらず、労働者を1人でも雇っている事業場は、労働保険への加入が義務づけられています。労災保険は労働基準監督署で、雇用保険はハローワークでそれぞれ手続きを行います。加入時にはその年度分の概算保険料の納付も必要となります。

労働保険の保険料率

労働保険料は労働者に1年間に支払う賃金総額に保険料率をかけて算出します。労働保険は業種ごとに保険料率が異なり、また令和4年度のように年度の途中でも料率が改定されることもあるため注意が必要です。

労災保険では1,000分の2.5から1000分の88の間で保険料率が分かれ、危険度の高い業種ほど高く定められており、保険料は全額を事業主が負担します。[※1]

雇用保険は事業主と労働者の双方が負担する形になっており、事業の種類によって保険料率と負担割合が定められています。[※2]

また、労働保険の年度更新の際には、保険料と合わせて一般拠出金も納付する必要があります。一般拠出金はアスベスト(石綿)で健康被害を受けた人を救済する費用に充てるために全事業主が負担をするもので、一般拠出金率は1,000分の0.02となっています。

[※1] 令和5度労災保険料率 ※平成30年度より改定なし
・厚生労働省 | 令和5年度の労災保険率
[※2] 令和5年度雇用保険料率
・厚生労働省 | 令和5年度の雇用保険料率

労働保険は毎年申告と納付が必要

労災保険と雇用保険は保険給付の役割は異なりますが、一括手続きにて保険料を納付します。

労働保険料は毎年4月1日から翌年3月31日までを年度とし、1年ごとに計算します。加入した年の労働保険料は加入時に納付しますが、翌年度以降の労働保険料は毎年申告・納付する必要があります。

労働保険料は先に概算額を申告のうえ納付します。保険料は賃金総額によって変わりますので、年度末にならないと確定しません。年度末に賃金総額、保険料が確定してから差分を精算します。このように、前年度の保険料の確定と今年度の概算保険料の申告の両方を同時に行う手続きが労働保険の年度更新となります。労働保険に加入している限り、毎年更新手続きが必要となります。

労働保険の年度更新手続きの流れ

労働保険の年度更新の手続きは以下の流れで進めていきます。

1申告関係書類の確認

年度更新に必要な書類は、例年5月下旬ごろに管轄の労働局から事業所宛に郵送されます。
以下のような書類が送付されてきます。印字されている会社名などに間違いがないかを確認します。

(年度更新 申告関係書類)
  • ・労働保険 概算・増加概算・確定保険料 石綿健康被害救済法 一般拠出金申告書
  • ・確定保険料・一般拠出金算定基礎賃金集計表
  • ・申告書の書き方
  • ・保険料率表

2労働保険の対象労働者の確定

(1) 労災保険の対象労働者

基本的な考え方として、常用、日雇、パート、アルバイト、派遣等、名称や雇用形態にかかわらず、労働の対償として賃金を受けるすべての者が対象となります。(ここでは、法人の役員で「労働者」として取り扱う者、事業主と同居している親族で「対象者」となる者については省略)

(対象となる労働者)
  • ・正規・非正規の常用労働者
  • ・出向先として受け入れている出向労働者
  • ・派遣元として契約している派遣労働者
  • ・日雇い労働者

(2) 雇用保険の対象労働者

基本的な考え方として、雇用される労働者は常用、パート、アルバイト、派遣等、名称や雇用形態にかかわらず、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがある場合は原則として対象となります。出向労働者の場合は、出向元と出向先かにかかわらず、その労働者が生計を維持するために必要な主たる賃金を受けている方においてのみ対象なります。なお、上記の条件を満たしていても以下の労働者は対象にはなりません。

(対象にならない労働者)
  • ・季節的に雇用される者であって4ヵ月以内の期間を定めて雇用される者
  • ・季節的に雇用される者であって1週間の所定労働時間が30時間未満の者
  • ・昼間学生

3賃金集計表の作成

労働保険の対象労働者が確定したら、次は保険料計算の基礎となる賃金総額を集計するために賃金集計表を作成していきます。前年4月1日から本年3月31日に賃金を支給した中途採用者、退職者を含む全ての労働保険対象者に支払った賃金総額を、労災保険の対象者分と雇用保険の対象者分のそれぞれを集計表に記入します。

賃金集計表は厚生労働省が提供している「年度更新申告書計算支援ツール」を用いると保険料の算定基礎額が自動計算されスムーズに作成できます。[※3] なお、作成した賃金集計表は提出する必要はありません。

[※3]年度更新申告書計算支援ツール
・厚生労働省 | 労働保険関係各種様式

4申告書の記入 1) 確定保険料の算出

賃金集計表で集計した賃金総額を申告書の確定保険料欄に転記し、あらかじめ印字された保険料率をその額に掛けて、労災保険、雇用保険それぞれの確定保険料を算出し記入します。同時に、一般拠出金も算出し記入します。

5申告書の記入 2) 概算保険料の算出

確定保険料の算出と同様に賃金集計表で集計した賃金総額を申告書の概算保険料欄に転記し、労災保険、雇用保険それぞれの概算保険料を算出し記入します。

6申告書の記入 3) 概算保険料の精算

4で算出した確定保険料と申告書に予め印字された申告済概算保険料額(前年に納付した概算保険料)との差額を算出します。申告済概算保険料額の方が確定保険料の額より少なければ、その差額を追加納付することになります。逆に申告済概算保険料額の方が確定保険料の額より多ければ、その差額を当年分の納付に充当もしくは還付申請します。

7申告書の提出と保険料の納付

申告書を作成したら申告の提出と保険料の納付を行います。保険料の納付は原則一括納付ですが、概算保険料が40万円以上であれば3回の分割納付が可能です。納付期日は例年、第1期が7月10日、第2期が10月31日、第3期が1月31日となります。申告書の提出は金融機関、都道府県労働局、労働基準監督などへ提出します。保険料の納付は金融機関で行います。口座振替、電子納付も可能です。

労働保険の年度更新における注意点

労働保険対象賃金の範囲に注意

労働保険料は賃金総額より算出しますが、この賃金には含まれるものと含まれないものがあります。給与、手当、賞与など名称にかかわらず、労働に対して支払われる報酬はすべて労働保険の対象の賃金となります。しかし、役員報酬、傷病手当金、災害見舞金、解雇予告手当、出張旅費や宿泊費などは対象賃金には含まれません。

・厚生労働省 | 労働保険対象賃金の範囲

賃金集計の基準は締日

賃金総額は毎年、前年4月1日から本年3月31日までの1年間を単位として集計しますが、支給日ではなく賃金の締日を基準として集計します。例えば、3月末締4月払いの給与は3月分として計上する必要があります。前年3月分の賃金を4月に支払った額は集計に含めず、本年3月分の賃金を4月に支払った額を賃金総額に含めて集計します。

手続きが遅れると追徴金

年度更新は毎年6月1日から7月10日の間に行う必要があります。手続きが遅れると、労働保険料は国により決定され、さらに追徴金が課される恐れがあるため注意が必要です。

還付金があるときは別途手続き

労働保険料に還付額がある場合、申告書の提出だけでは還付はされません。「労働保険料・一般拠出金還付請求書」を労働基準監督署又は都道府県労働局に提出する必要があります。

労働保険の年度更新は毎年必要な手続きです。処理が遅れると、追徴金の支払いなども必要になるため余裕を持って処理を進めましょう。また、対象者や対象賃金の確認が必要になることから、常時、賃金台帳等を正しく作成しておくことが、効率よく処理するポイントとなります。

MASONでは、労働保険の年度更新のための賃金集計等もご提供しています。社会保険労務士や実務経験豊富なスタッフが担当しておりますので、アウトソース活用のご検討の際はぜひMASONまでお気軽にご連絡ください。

(参考・出典)
厚生労働省 | 労働保険年度更新申告書の書き方

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