算定基礎届は、社会保険料の算出に必要な標準報酬月額を計算するために必要な書類です。どのように作成するのか、また、いつ提出するかなどについてわかりやすく解説します。作成に活用できるサービスも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
算定基礎届とは標準報酬月額算出に必要な書類
算定基礎届は、標準報酬月額を計算するために提出する書類です。
なお、標準報酬月額とは、連続する3ヶ月の報酬を月額で計算した報酬月額を特定の区切りに従って50の等級に区分し、それぞれの等級ごとに決めた金額を指します。
例えば、4月の報酬が30万円、5月が31万円、6月が26万円だったとしましょう。3ヵ月の報酬を平均した月額報酬は29万円です。
月額報酬ごとの標準報酬月額については、協会けんぽの場合は各都道府県の保険料額表で確認できます。東京都(令和4年3月分以降)であれば、月額報酬29万円の標準報酬月額は30万円です。
参考:全国健康保険協会「令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」
社会保険料の算出には標準報酬月額が必要
標準報酬月額は、社会保険料を計算する際に用いる数値です。例えば、社会保険料の一つ、厚生年金保険料は、次の計算式で求めることができます。
標準報酬月額×厚生年金保険料率×1/2
東京都(令和4年3月以降)の厚生年金保険料率は18.3%です。しかし厚生年金保険料は労使折半となるため、実際に従業員が納付する厚生年金保険料は標準報酬月額×18.3%で求めた金額の半分となります。
報酬月額が29万円のケースで、シミュレーションしてみましょう。報酬月額29万円の場合、標準報酬月額は30万円です。上記の計算式に当てはめると厚生年金保険料は27,450円(30万円×18.3%×1/2)と求められます。
他にも健康保険料や介護保険料も、標準報酬月額に一定の割合をかけて求めることが可能です。このように、標準報酬月額は社会保険料を正確に計算し、適切に社員の報酬から控除するために不可欠なものといえます。
毎年1回、算定基礎届を年金機構や健康保険組合等に提出し、標準報酬月額が正しく計算できるようにしておきましょう。
算定基礎届の対象者
以下に該当する従業員は、算定基礎届の提出対象となります。
その年の7月1日の時点で社会保険の被保険者となっている全従業員と70歳以上の被用者
育児休業や介護休業などで求職中の従業員も、上記の条件を満たす場合は算定基礎届を提出しなくてはいけません。一方、以下のいずれかに該当する場合には、算定基礎届の提出は不要です。
- その年の6月1日以降に社会保険の被保険者となった従業員
- その年の6月30日までに退職した従業員
- その年の7月に月額変更届を提出する必要が生じた従業員
なお、月額変更届とは、報酬月額が大幅に変わり、標準報酬月額が2等級以上変動した従業員に関して年金機構や健康保険組合等に提出する書類です。
算定基礎届と同じく標準報酬月額を正確に計算するために必要な書類ですが、算定基礎届は年1回の定期提出が義務付けられているのに対し、月額変更届は条件に該当する場合に随時提出する点が異なります。
算定基礎届の作成手順
算定基礎届は、その年の7月1日の時点で社会保険の被保険者となっている全従業員と70歳以上の被用者を対象に、必要事項を記入して作成します。以下の手順に従い、速やかに作成しましょう。
- 1.標準報酬月額の対象となる報酬をまとめる
- 2.支払基礎日数を確認する
- 3.報酬月額と保険料額表を照らし合わせる
それぞれの手順について解説します。
1. 標準報酬月額の対象となる報酬をまとめる
標準報酬月額を求めるためには、報酬月額を計算しなくてはいけません。報酬月額には、次のものが含まれます。
- 基本給
- 能率給、奨励給
- 役付手当、特別勤務手当、日直手当、通勤手当
- 年4回以上支給される賞与
- 通勤定期券、回数券、食券、社宅などの現物支給品
これらの報酬を4~6月の3ヵ月間に関して計算し、平均して報酬月額を求めます。なお、次の報酬や現物支給に関しては、報酬月額には含めません。
- 退職手当
- 出張旅費
- 交際費
- 傷病手当金
- 労災保険によって受け取った休業補償給付
- 年3回以下の賞与
- 制服、見舞品などの現物支給品
4~6月の報酬によっては調整が必要
4~6月の報酬月額から求めた標準報酬月額が、前年の7月から当年6月までの報酬月額から算出した標準報酬月額と大きく異なり、2等級以上の差が生じていることがあるかもしれません。
例えば、4~6月に繁忙期を迎える企業であれば、年の平均報酬月額と3ヵ月間の平均報酬月額に大きな乖離が生じるでしょう。
このようなケースでは、4~6月の報酬月額で計算すると標準報酬月額が大きくなりすぎ、社会保険料も多額になり、手取りが少なくなってしまいます。
標準報酬月額において2等級以上の差が生じる場合に限り、4~6月の報酬月額ではなく前年7月から当年6月までの報酬月額から標準報酬月額を計算し、従業員の報酬から控除される社会保険料を調整することが可能です。
ただし事業主の申立書と被保険者の同意も必要になるため、事前に周知して必要書類を準備しておきましょう。
2. 支払基礎日数を確認する
報酬月額を算出する月の支払基礎日数が、17日以上あるか確認します。支払基礎日数が17日未満の月は、報酬月額を算出するときは含めません。
なお、支払基礎日数とは給与が発生する日数のことです。パートなどで日給制や時間給制で報酬を受け取っている従業員に関しては、出勤日数が支払基礎日数に相当します。
一方、月給制の場合は、欠勤控除があるかどうかで数え方が異なる点に注意しましょう。欠勤控除があるときは、支払基礎日数は所定労働日数から欠勤日数を差し引いて求めます。欠勤控除なしのときは、暦日数が支払基礎日数です。
報酬月額と保険料額表を照らし合わせる
報酬月額を求めたら、各都道府県の保険料額表と照らし合わせて標準報酬月額を決定します。協会けんぽの場合、保険料額表は都道府県ごとに異なるので、該当する地域のものを使用しましょう。
算定基礎届の提出手順
算定基礎届には事業所の所在地や名称、事業主の氏名、提出対象となる従業員の氏名や生年月日、4~6月の報酬月額を記載します。記入する数字が多いため、間違いがないか確認した後に提出しましょう。以下の手順で算定基礎届の提出を行います。
- 1.用紙を受け取る
- 2.期限内に提出する
それぞれの段階において、何に注意すべきか解説します。
1. 用紙を受け取る
算定基礎届の用紙は、年金機構や健康保険組合等から6月に送付されます。すでに被保険者である従業員の氏名等を印刷した状態で送付されるため、新しい従業員が増えたときなどは記入する欄が不足することもあるでしょう。
記入する欄が足りないときは、年金機構や健康保険組合等に連絡することで追加の届出用紙を受け取ることができます。また、年金機構や一部の健康保険組合等のホームページでもダウンロードできますので、急いでいるときなどは印刷して活用しましょう。
参考:日本年金機構「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届/70歳以上被用者算定基礎届」
2. 期限内に提出する
算定基礎届は、通常は7月1日~10日に提出します。ただし、年度によっては開始日や終了日が土日祝日にかかり、日がずれることもあるので注意が必要です。
提出方法は4種類
算定基礎届の提出先は、企業が加入している保険組合によって以下のように異なります。
- 全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)→事務センター(年金事務所)
- 組合管掌健康保険(健康保険組合)→事務センター(年金事務所)および健康保険組合
例えば、全国健康保険協会管掌健康保険に加入している場合は、以下4種類の提出方法から選択が可能です。
- 窓口に直接持っていく
- 郵送で提出する
- 電子申請を利用する
- CDやDVDなどの電子記録で作成し、郵送で提出する
なお、算定基礎届に同封された返信用封筒を用いると、宛先の住所や名称を記載せずに年金機構や健康保険組合等に提出できます。
社会保険料の計算は正確に!アウトソーシングのすすめ
算定基礎届を作成するためには、報酬月額を正確に計算することが必要です。報酬月額の算定には、該当する報酬を毎月従業員ごとに正確に記録することが前提となります。
記録や管理、また標準報酬月額から社会保険料の計算が難しいと感じるときは、アウトソーシングも検討してみましょう。
次の記事では、社会保険料を計算する方法について詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
社会保険の計算方法とは?保険の種類ごとにシミュレーションで解説
まとめ
算定基礎届は、社会保険料の計算に不可欠な書類です。提出期限が決まっているため、速やかに提出できるように普段から報酬を適切に管理し、いつでも計算できる状態にしておくことが必要になります。
MASONでは、企業様のご要望に合わせた給与計算アウトソーシングサービスをご提供しています。給与計算をアウトソーシングすることで、慌ただしくなることが多い算定基礎届の提出時期も、余裕をもって迎えることができるでしょう。
また、給与計算アウトソーシングサービスは、報酬月額や社会保険料の計算にも活用していただけます。ぜひお気軽にご相談ください。